東京の井戸

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嫌なことへの向き合い方 -ヴィクトール・フランクル『それでも人生にイエスという』書評

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人生は嫌なことで満ちています。満員電車、排水溝の掃除、上司のご機嫌とり。

ナチの強制収容所を生き抜いたヴィクトール・フランクルの『それでも人生にイエスという』から、嫌なことへの向き合い方を考えました。 

今週のお題:読書の秋

 

印象に残った言葉

すべては、その人がどういう人間であるかにかかっていることを、私たちは学んだのです。最後の最後まで大切だったのは、その人がどんな人間であるか「だけ」だったのです。

『それでも人生にイエスと言う』

 

もう、「私は人生にまだなにを期待できるか」と問うことはありません。いまではもう、「人生は私になにを期待しているか」と問うだけです。人生のどのような仕事が私をまっているかと問うだけなのです。

『それでも人生にイエスと言う』

 

なにをして暮らしているか、どんな職業についているかは結局どうでもよいことで、むしろ重要なことは、自分の持ち場、自分の活動範囲においてどれほど最善を尽くしているかだけだということです。

『それでも人生にイエスと言う』

 

もし飢えになにか意味がありさえするなら、きっとまた進んで飢えを忍ぶものだ、と私は身をもって経験したからです。

『それでも人生にイエスと言う』

 

苦悩が意味をもつかどうかは、その人にかかっているのです。

『それでも人生にイエスと言う』

 

どんなつまらない仕事にも意味がある?

本を通して、フランクルは「あなたの仕事がどんなつまらなく、くだらないと思えるものだったとしても、それに対する姿勢で人生への意味が生まれる」と述べています。

ほんとうにそうでしょうか?

確かに本人が「病気に対してどんな態度をとるかで、人間らしくなれる」と言っているみたいに、「人間らしく」なることはできるでしょう。

さっきバスに乗ったのですが、さあ発車というところで前の方から全速力で走ってくる小学生が見えました。

運転手は一度閉じたドアを開けて彼を待ち、バスは彼を乗せてから発車しました。

こういうのが「人間らしい」行いなんでしょうね。

でも、私にはこういう些細なことを「人生の意味」とまで言う気には、どうしてもなれないんですよね。

 

フランクルの思想は現実を変えられない人の人生論

フランクルが言っているのはこういうことです。

あなたの仕事や役目はどうしようもない程つまらなく、無益に思え、場合によっては人に害すら与えるかもしれない。けれどあなたがそのつまらない仕事へ取り組み姿勢次第で、あなたの人生は意味あるものになるのです。

確かにこういう考えは、収容所の中のような「現実を変えられない状況」では有効かもしれません。通常なら人間性を失ってしまいそうな状況でも、「今こそ私の生きる意味が試されているのだ」という気持ちを持てば、人間性を失わず、慈愛に満ちた行いができるかもしれません*1

しかし私たちは今のところ、基本的人権と自己決定権の認められた日本に住んでいます。私たちは自分の仕事が耐え難ければ転職する権利があるし、学校で不当な扱いを受ければ抗議する権利があります。

他人への慈愛を持つというプラスの意味において、フランクルの人生論は有効かもしれませんが、状況そのものを昔より容易に変えられる現代で、フランクルの人生論がどこまで通用するのか疑問です。

もちろんフランクルは「どんな環境でも我慢せよ」とは言っていないのですけれど。

 

人生に意味が感じられないなら、自分を変えるのではなく、現実を変えるべきだ

私が言いたいことは、つまるところこの一言です。

あなたがもし、仕事がつまらない、やりがいがないと感じているなら、「この仕事は私がやるべきことではないんじゃないか」という気持ちを持ち続けましょう。その気持ちが積み重なれば、仕事の意味を再発見できるかもしれないし、転職する勇気に昇華するかもしれません。

あなたがもし、職場や学校で不当でつらい扱いを受けていて、「ここは私の居場所じゃない」と思っているなら、居場所を変えるか、その扱いを改めさせるために闘いましょう。決して「大事なことは自分の持ち場でどれほど最善を尽くしているかだ」と思い、その環境を耐え忍ぶ必要はありません。私たちは収容所に閉じ込められているわけじゃないのだから。

 

おわりに

さて、ここまで読んでくださった方は私がフランクルの意見に全面的に反対しているような印象をお持ちになるかもしれません。

実はそんなことはなく、初めて『夜と霧』を読んだときは一晩で全て読んでしまい、感動してもう一読したのを覚えています。フランクルは私の大好きな著者のひとりです。

私たちは様々な「嫌なこと」に囲まれています。満員電車、排水溝の掃除、上司のご機嫌とり…。

「嫌なこと」に対するアプローチは3つです。我慢する、逃げる、闘う。

我慢する、を選んだ場合、あるいは選ばざるを得ない場合、フランクルの哲学は大きな助けになることと思います。

しかし逃げる勇気、闘う勇気を忘れずにいたいのもまた事実です。特に最近は、逃げるチャンス、闘うチャンスは昔より増えていますから。

 

紹介した本 

*1:実際にフランクルは、収容所の囚人という極限状態に置かれても1日たった1杯のスープを分け与えるといった人間らしい行いが見られたと言います。