こんばんは。東京のひとです。
2017年に大規模なバブル相場となり、2018年に暴落したビットコインですが、
今年(2019年)に入ってまた急騰を見せています。
先日には1ビットコインが150万円以上で取引される場面もありました。
しかし、そもそもネット上の「数字」にすぎないビットコインなどの仮想通貨*1が大金で買われているとはどういうことなのでしょうか。
仮想通貨(暗号通貨)はなぜ、革新的な技術と言われているのでしょうか。
仮想通貨で社会はどう変わるのでしょうか。
今日はそんな疑問に過不足なく答えてくれる良著『暗号通貨の経済学』(小島寛之著)を見つけたので、レビューします。
紹介する本はこちらです
暗号通貨は管理者のいない通貨
ビットコインは、ネット上に置かれ、ネット上で取引され、ネット内で流通するお金です。リアルな世界での実体を持たない、単なるデジタル情報にすぎません。そんな単なる「数字」にすぎないビットコインが、各国の通貨と交換され、また、実物商品を購入することにも使えます。これは、いったいどういうことなのでしょうか?
『暗号通貨の経済学』
誰も管理していないのに信用されるビットコイン
通貨に限らず、現代の私たちの生活は「信用」によって成り立っています。
1万円札を持っていればランチに困ることがない、というのは
私たちが1万円札のことを、ひいては発行している日本の政府を「信用」していることに他なりません。
この信用の源泉は色々あります。
例えば国の通貨であれば、国が税金を取ることができるからとか、国が適切に供給量を絞るからとか言われます(ですから逆に、適切な政策ができる政府がいない国では、その国のお札を持っていても何も買えない、ということがおきます。ジンバブエや敗戦直後のドイツがいい例です)。
大企業が発行する金券とか、個人が発行するVALUなどのトークンも、発行者への信用が価値の源泉という点では同じだね。
ところが、管理している人がどこにも居ないのに「信用」されている通貨があります。それがビットコインです。
ビットコインは分散型台帳技術という画期的な発明をもとにしている通貨で、
簡単にいうとみんなの「多数決」が信用のもとになっています。
もし誰かが自分の所持金を多くしようとしたり、別の人に宛てて送ったお金を横取りしたりしようとすると、
他の人たちが「いや、それはあなたのお金じゃないでしょう」と言って修正する仕組みです。
今回レビューする『暗号通貨の経済学』でも技術の話は出てくるけど、仮想通貨を支える仕組みについては『ブロックチェーンの教本』でより詳しく学べるよ
管理者がいなければ、景気を制御できない
日本円や米ドルといった法定通貨では、政府が供給量(お札の発行量)を調整することで景気を制御しています。
景気が悪くなると失業が増え、生活が苦しくなってしまいますし、
逆に景気が良すぎるとバブルになり、通貨が価値の保全の役割を果たせなくなります。
政府はある程度の好景気・不景気の範囲内で景気を循環させ、長いスパンで経済成長できるよう、金利や通貨供給量の調整を行なっているのです。
ビットコインなどの仮想通貨には管理者がいないので、こうした金融政策を行う人がいません。
通貨の供給量だけはあらかじめプログラムで決まっているのですが、管理者がいないがゆえに価格の乱高下がおき、バブルが起こっては弾けるという流れを短期間のうちに繰り返している面があるのです。
もちろん、管理者がいないことによるメリットもあります。
政府も人間がコントロールしている以上、間違えたり判断が遅れたりすることがあります。
実際、キプロスやベネズエラ、ジンバブエといった国では、政府が信用を無くし、人々は一時期ビットコインで生活していたという例があるようです。
つまり、政府の信用が仮想通貨のプログラムへの信用を上回れば人は法定通貨を買い、
何らかのアクシデントで政府への信用が失われると、発行量が制御されている仮想通貨が買われるという現象が起き始めています。
仮想通貨の普及で社会はどう変わるのか
このように、一見すると今までの経済学の枠組みにとどまらないように見える仮想通貨ですが、著者は経済学のツールを使って仮想通貨の経済が分析できると主張します。
そのツールがゲーム理論です。
経済学のモデルを説明するツールとして長い歴史がありますが、人間のもつ感情や欲求といった非合理的な特性を説明するのが難しいという弱点があるとされています。
ゲーム理論は経済学や社会学の分析ツールとして非常に有用なのですが、
人間のもつ非合理的な特徴や個性を反映しきれないという弱点があります。
しかし仮想通貨は発行量など重要な部分がすべてプログラムで決まっている上、
取引も7割ほどはAIが行なっていると言われており、ゲーム理論を理論どおりに適用できる可能性が高いのです。
本書では筆者のもつ豊富なゲーム理論の知見で、暗号通貨が普及した後の世界の「思考実験」が行われていきます。
おわりに
仮想通貨という全く新しい技術に直面した時に私たちが困惑してしまうのは、
「どこまで今までの常識が通用して、どこから通用しないのか」がわからないことではないでしょうか。
乱高下が続く仮想通貨は、ともすれば「どうすれば儲かるのか」「買うべきかどうか」という投機的な面ばかり見てしまいがちです。
この本はそうした見方とは一線を画し、今まで経済というものに向き合ってきた著者だからこそわかる「新しい貨幣論」というべき地に足のついた内容になっていると感じました。
仮想通貨に興味があるなら、必ず得るものがあるはずです。
*1:本書では「暗号通貨」とされていますが、この記事ではより一般的な「仮想通貨」の呼称を使います。