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『ヒトラーの経済政策』感想

ヒトラーの経済政策の感想

こんばんは。東京のひとです。

今日は武田知弘『ヒトラーの経済政策』を読みました。

ヒトラーはホロコーストに代表される残虐な政策ばかりが有名で、世界恐慌にあえぐドイツをいち早く復興させ、経済的にめざましい成果をあげたことはあまり知られていません。

本書はあえてヒトラーの経済政策にのみ焦点を絞り、その功罪を公平な視点で分析した良書です。

 

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失業をなくし、経済を奇跡的に復興したヒトラー

ヒトラーは政権をとるやいなや、アウトバーンの建設などで、またたくまに失業問題を解消し、600万人いたドイツの失業者はわずか3年後にはほとんど消滅してしまった。

『ヒトラーの経済政策』

ヒトラー登場時のドイツ

ヒトラーが政権をとった1933年、ドイツの経済は最悪でした。1932年には失業者は650万人をかぞえ、これは労働者の3人に1人が失業していることを意味しました。 

ドイツの経済が悪かった原因は主に2つあります。

ひとつは税収10年分といわれた第1次世界大戦の賠償金の支払い。もうひとつは1929年にはじまった世界恐慌です。恐慌の結果、イギリスやフランスは自国の植民地とだけ交易を行い富の流失をふせぐ「ブロック経済」を採用、植民地をもたないドイツは製品を売る市場を失い窮地に立たされました。

壊滅的な不況のなかで、ドイツ国民が国を変えてくれる強い指導者を求めたのは当然かもしれません。そこで登場したのがヒトラーなのです。

ヒトラーはたちまち失業をなくし、ドイツを復興させた

ヒトラーは就任2日目に「4カ年計画」を発表、大幅な減税や公共事業を次々に実施し、失業問題をまたたくまに改善します。

これらの大規模な政策は国民の心を掴んだだけでなく、経済の面でも合理的に設計されていました。

例えば今もドイツの大動脈として機能している「アウトバーン(高速道路)」はナチスが作ったものです。この工事では建設費のじつに46%が労働者の賃金になるように設定されていました。

アウトバーンの建設で動員された労働者はついこの間まで失業していた人びとです。こうした人びとは生活に困窮していたので、比較的すぐに給料を使うだろうと考えられます。

実は経済学上、公共事業で支払われた給料は貯金されずに使われれば使われるほど景気をよくする効果があります(乗数効果と呼ばれます)。給料としてもらったお金で何かを買えば、それが誰かの給料となり、また別のものが購入される…という循環が起きるためです。

なるべく多くのお金を労働者の賃金にする、という政策は経済的にも理にかなったものだったのです。

合理化を徹底した政策を次々に行い、ドイツの失業と不況はたちまち改善していきます。

 

学ぶところの大きいオリンピック政策

オリンピックをビジネスチャンスと捉え、巨大なイベントにしようとした最初の国がナチス・ドイツだといえる。

『ヒトラーの経済政策』

様々な新趣向をとりいれ、オリンピックをビジネスに

現在では当たり前になった「オリンピックの経済効果」ですが、実は本格的にオリンピックをビジネスとして利用し始めたのはナチスです。

「ドイツの復興」と「ナチスの威信」を世界中に向けて発信し、各国の事業家たちのビジネス意欲をかき立てたのだ。 

『ヒトラーの経済政策』

 例えばナチスは、オリンピックを盛り上げるために聖火リレーを導入しました。競技のテレビ中継をはじめたのもナチスですし、選手村にも数々の工夫がこらされました。

アメリカ人には、ビーフステーキ、アイスクリームが、フランス人には良質なワインが、イギリス人にはオートミール、紅茶、日本人にはごはんと漬物までが用意された。 

『ヒトラーの経済政策』

こうした施策は、世界中から寄せられているナチスへの不信感、とくにユダヤ人迫害政策などへの批判をかわすという面も持っていました。

しかし、国そのものをプロモーションし、世界中の観光客や報道関係者を「もてなす」という姿勢には学ぶところは大きいのではないでしょうか。

 

日本だからこそ、しがらみのない視点でナチスの経済政策を再評価できる

ナチスは言うまでもなく、ホロコーストや精神病患者への虐殺をはじめとする非人道的な政策で20世紀最大の惨劇をうんだ張本人です。その過ちを忘れてはいけないし、再び繰り返さないように学ばなければいけない。

しかしながら、ナチスが当時のドイツ国民の絶大な支持を得ていたのも事実です。

その支持の背景には、やはり3人に1人が失業している状況を打破し、社会の閉塞感を取り除いたことがかなり関係していると思われます。

失業や税負担、格差といった課題は、現在もすべての国が抱えているものです。こうした課題を4年のうちにほとんど解決してしまったナチスの手腕からは、学ぶべきところもあるのではないでしょうか。

 

目的と手段は違う

先に述べたとおり、ナチスのオリンピック政策はユダヤ人迫害政策への世界からの非難をそらす目的もあったと思われます。

しかし、手段としてのナチスの広報戦略や「おもてなし」の姿勢には、大いに学ぶところがあるように思います。

同じように、今こそナチスの経済政策から学ぼうというのが、私の考えです。

私たちは、原子爆弾を作るのと同じ技術によって、日々の電力を得ています。

私たちは、湾岸戦争でアメリカ軍が敵味方を識別するために導入した技術を使って、カーナビを開発しました。

私たちは、地雷を除去する軍用ロボットの技術を応用して、ロボット掃除機を作りました。

私たちは、ナチスがロンドンを爆撃したV2ロケットの技術を発展させて、月に立ちました。

経済政策は技術であり、手段なのです。それをどう使うかは、私たちの手に委ねられているのです。

ナチスは天才的な経済政策によって富をたくわえ、残念ながらそれを戦争に使用しました。しかし皆さんもご存知の通り、お金は人を殺すのではなく、人を救うことにも使えるのです。

私たちが正しい目的を持っている限り、ナチスの経済政策に学ぶことは正しいおこないなのではないでしょうか。

 

日本はナチスの経済政策を冷静に評価する、絶妙な立ち位置にいる

とはいえ、実際に戦禍にまきこまれたヨーロッパの国々は、まだまだナチスの経済政策だけを切り離して評価する、というような段階にはいません。

ナチ的な考えを表明するだけで犯罪とされる国もあります。

その点ヨーロッパから遠く離れ、戦争の敗戦国として大戦の歴史に学ぶという姿勢を同じくしている日本は、ナチスの経済政策を冷静に見ることのできる絶好の立ち位置にいるのではないでしょうか。

 

おわりに

以上、『ヒトラーの経済政策』感想でした。

今回紹介した本はこちらです。