東京の井戸

慶應通信で学ぶ20歳の、学びと読書の記録。

「想起」が最強の学習法である理由|『使える脳の鍛え方』書評

『使える脳の鍛え方』書評

こんにちは、東京のひとです。

学生であってもなくても、日々は学びの連続です。

学びを「新しい知識を取り入れ、それを現実に適用すること」と定義するなら、

自動車の運転も、地下鉄の路線図も、取引先でのマナーも、

私たちが日々悩んでいることの大半は「いかに早く、正確に学ぶか」ということになるのではないでしょうか。

今日は、そんな「効率の良い学習法」に関して興味深い本があったので紹介します。

 

 

 

使える脳の鍛え方』に出会った経緯

圧倒的に時間が足りないので、効率の良い学習法を見つける必要がありました。

学習や仕事などあらゆる活動は

活動量=効率×投下時間

で表されます。

時間が限られている以上、効率の方を工夫しないと活動量を確保できないのがわかりますね。

勉強法に関する本を10冊くらい読んで、一番しっくりきたのがこの本でした。

 

著者の考える「やってはいけない学習法」

「効率の良い学習法」を見る前に、著者が考える「ダメな学習法」を見ていきたいと思います。

 

やってはいけない学習法1:テキストを繰り返し読む

あぐらをかいて本を読む女性

まず著者が否定するのが、最近流行りの「繰り返し読み」です。

テキストを繰り返し読み込むことは、今では学習法の定番のようになっていますが、

「繰り返すことで記憶が定着する」というのは完全な誤りだと著者は主張します。

 このことは下の簡単な問題に取り組むだけでわかります。

問題:100円玉の表(「100円」と書いてない方)をスケッチしてください

いかがでしょうか。

繰り返すだけで記憶が定着するなら、生まれてから何百回と見ている100円のスケッチができないはずはありません。

しかし実際にはかなり怪しかったのではないでしょうか。

つまり、繰り返すだけでは記憶は定着しないのです。 

正確に言えば、繰り返し見ていると、

100円玉を見たときに「これは100円玉だ」と気づく能力

は養われますが、自発的に記憶を構成するには不十分なのです*1

 

やってはいけない学習法2:短期間に集中的に学習する

受験業界の季節講習や、テック業界のブートキャンプなど、

短期間に集中して学習する「集中学習」も広く行われていますね。

しかし著者は、集中学習で学んだ記憶は長持ちせず、長い目で見ると無駄な学習になってしまうと指摘します。

端的に表したのが以下の一節です。

たしかに効果を実感できる手法だから、翌日の中間試験では役立つかもしれないが、学年末試験を受けるころには忘れてしまっている。 

『使える脳の鍛え方』

つまり、短期間に多くの量を詰め込む学習は、

短期的には効果を実感できるかもしれないけれど、長持ちしない

ということですね。

 

「想起学習」が最強の学習法

 では筆者の考える最も効率の良い学習法は何なのか。

それは「想起学習」だといいます。

想起学習とは?

湧き出てくるイマジネーション

もとの学習教材を見直すより、過去に学んだことを記憶から呼び出す想起練習をするほうが、はるかに記憶が定着しやすいことがわかっている。

『使える脳の鍛え方』

「想起学習」とはつまり、「学んだことを記憶から呼び出す学習法」です。

例えば以下のような学習法が想起学習の一種として紹介されています。

  1. 一問一答のフラッシュカードを使って、日本語の意味に対応する英単語を思い出す練習をする
  2. 授業の最後に3分使って授業の内容に関するクイズを出題する。次の授業の最初にも同じ内容のクイズをする
  3. 奴隷制の歴史に関する文章を読んだあとでそれまで知らなかった奴隷制に関する事実を10個書き出す

こうした学習法は、実際に高い効果を生んでいます。

例えば、ある大学で

  1. 文章を一度読んだ後にすぐ文章に関するテストを受けたグループ
  2. 文章をたんに再読した(2回読んだ)グループ

が記憶力を比較しました。

すると前者のほうが文章に関してより多くのことを覚えており、しかも記憶が長続きしたのです。

学んだことを記憶から呼び出すのに、特別なデバイスや技術は必要ありません。

ただ「読んだ文章に関することを書き出してみる」程度でも十分効果があるのです。

 

想起学習をより効果的にする方法

想起学習は特別なスキルを必要としない学習法ですが、いくつかの工夫でもっと効果的になります。

本書より2つ紹介します。

間隔練習:少し時間をあけて思い出す

2時30分過ぎを指す金時計

あるスキルを習得するとき、適切な間隔をあけることが重要です。

本書では医師を対象にした実験が紹介されています。4つの手術スキルを

  1. 1日で4つのスキルに関する講義・実習を受講したグループ
  2. 1週間に1つずつ、計4週間かけて受講したグループ

にわかれて教わった結果、

後者のほうが(受講した時間自体は変わらなかったのに)圧倒的に優秀な結果を出しました。

筆者は間隔をあけることで、記憶の「統合*2」が強化され、「使える記憶」になるのだと説明しています。

交互練習:ふたつ以上の科目や技術を交互に学ぶ

複数の研究で、交互練習や多用練習をすると「判別力」がつくという結果が出ている。

『使える脳の鍛え方』

複数の科目やスキルを交互に学習することも重要です。

例えば、英語とドイツ語の単語を覚えたいと思ったとき、

最初の数日間は英語、次の数日間はドイツ語…とやるよりも

英語を1時間やったら次の1時間はドイツ語というように

交互に行うほうが効果的です。

確かに交互に行うと短期的には英語とドイツ語の単語が混ざってしまい、むしろ覚えられない、ということもあるのですが、

長期的には英語とドイツ語の発音や単語の作り方の違いまでわかるようになります。

このように単に記憶するだけではなく、複数の分野の「判別」までできるようになるには、交互練習が極めて有効です。

 

まとめ:想起学習こそ学びの「王道」だった

いかなる学習にも、「記憶」はつきものです。

しかし、学びの目的が試験であれ実技であれ、記憶は最終的な目的ではありません。

大切なのは「記憶」を試験や実地で適用できるようにすること。

ですから、試験対策であれば何度も繰り返し自分でテストをしてみることによって「使える記憶」を強化する。

実技であれば実際に実技の場を用意してみたり、イメージトレーニングしてみたりして代用する。

練習の段階で記憶を適用する本番の場になるべく寄せていく「想起」が学びの王道だというわけですね。

 

書籍情報

紹介した書籍はこちらです。

ピーター・ブラウンら認知心理学者11名による共同研究をもとにしているので、科学的な実験や記述が多いのが特徴です。

原書は「Make it stick - The science of successful learning*3で、その訳本です。

 

*1:マーク式・択一式の試験であれば対応できるかもしれませんが、ほとんどの試験や実技には対処できませんね

*2:脳が記憶を「消化」し、文脈に応じて取り出せるような繋がりとともに他の記憶と関連づけるプロセス

*3:「make it stick」は直訳すると「貼り付ける」。ニュアンスとしては「うまくいく」「うまくやる」など

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