東京の井戸

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ニコラス・タレブ『反脆弱性』書評① 反脆弱性とは

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ニコラス・タレブ『反脆弱性』には、変化に対して強く生きる知恵が詰まっていました。

 

 

タレブが発見した、「変化から利益を得る」という概念

本書のタイトルは耳慣れない言葉です。タレブは本書の中で数多くの概念を紹介しますが、全ての根幹になるのがこの「反脆弱性」という概念です。

ガラスのコップは机から落ちると割れます。ガラスのコップは変化に対して脆いのです。

鉄板は机から落としても割れません。机から落ちる前と後では、鉄板の状態は変わりません。鉄板は変化に対して頑健です。

変化からダメージを受ける性質を脆いと言い、変化から影響を受けない性質を頑健だと言うならば、変化から利益を得る性質に名前をつけようというのが、タレブの問題意識です。彼は変化によって利益を得る性質を反脆いと呼びます。

 

反脆い例:インフルエンザの注射

毎年秋になると行われるインフルエンザの予防注射は、身体の反脆さを利用した例です。

予防注射では、少量のインフルエンザウイルスをわざと体内に入れます。驚いた免疫細胞はすぐにインフルエンザウイルスを排除しようとし始め、やがてウイルスは取り除かれます。言い換えれば、強い本物のインフルエンザウイルスが入ってくる前にわざと弱い敵を倒す訓練をしておくわけです。

少しの変化から利益を得ているのがわかりますね。

 

反脆い例:心的外傷後成長

ある日、私はイギリス政府顧問で政策立案者のデイヴィッド・ハルパーンの事務所で椅子に座っていた。私が反脆さの考えを話すと、彼は「心的外傷後成長」という現象を教えてくれた。これは心的外傷後ストレス障害とは逆で、過去の出来事で心に傷を負った人々が、それまでの自分より強くなるという現象だ。

心的外傷後成長とイノベーション 『反脆弱性 上』

言われてみれば確かに、誰しもショックな出来事を乗り越えて強くなった経験の一つや二つあるでしょう。

ショックを受けすらしない、定期券を忘れて家を出たとかゴミを捨て忘れたとかそういう小さなミスだって、次からミスしないようにしようと決意するには十分です。

人間の身体だけではなく精神も、自然に反脆くできているのです。

 

小さな変化を抑えてはならない

タレブはさらに、「自然のものには反脆さが備わっているのだから、小さな変化を押さえつけるのではなく、歓迎しなければならない」と述べています。

リバタリアンたちがよく挙げる例として、オランダの町・ドラハデンがある。この町では、夢の実験が行われた。道路標識がすべて撤去されたのだ。規制撤廃により、安全性は向上した。これは、注意力の反脆さが働いている証拠である。危険という意識や責任感が注意力を研ぎ澄ますことがわかる。この結果を受けて、ドイツやオランダの多くの町が道路標識の削減を進めている。

浅はかでない干渉主義へ 『反脆弱性 上』

反対に小さな変化を抑え込み、変化に鈍感になっていると、いずれくる大きな(望ましくない)変化に対応できないのです。

航空機の自動化のせいで、航空機の操縦はパイロットにとって危険なまでにラクな作業になった。危険が少なすぎることで、パイロットの集中力や技術は鈍くなり、実際に数々の航空死亡事故が起きている。

心的外傷後成長とイノベーション 『反脆弱性 上』

小さな変化に鈍感で、大きな変化に対処できないというのは、経済の分野で破滅的な結果をもたらす可能性があります。

私たちは預金として銀行にお金を貸しています。銀行は中小企業にお金を貸しています。銀行の向こう側で多くの中小企業が潰れ、私たちのお金が無くなっているという変化を、私たちは知ることができません。

中小企業の倒産という小さな変化から守られているがために、最初に変化に気づいた時にはもう銀行が潰れたあとだった、ということが起こるのです。

今の日本でありそうもない話ですが、タレブは本気で心配しています。実は私も。

 

おわりに

2つだけ例をあげましたが、反脆さは至るところにあります。

変化から利益を得る構造は、特に自然界に多く、人工のものに少ないようです。

では、人工的なもので反脆く、変化を糧に前へ進めるようなものはないのか、そのあたりは次回考えてみたいと思います。

以上、反脆弱性とは何かについてでした!

 

紹介した本

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