東京の井戸

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林公一『こころと脳の相談室名作選集』書評

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今日は林公一『こころと脳の相談室名作選集』を読みました。

林先生の真実に対する姿勢について、思うところがあったので書きます。

 今週のお題「読書の秋」

 

 

印象に残った言葉

もし事実を伏せることを是とするならば 、明るいことだけを語ることは可能だ。希望だけを語ることは可能だ。だが事実を伏せた明るさは、事実を伏せた希望は、すべて偽りである。偽りからは何も生まれない。闇のような絶望であっても、それが事実である限り、いつか光は差してくる。真の希望への第一歩になる。パンドラの箱を開けたら、その底に目を向けなければならない 。

まえがき

 

興味本位で読んでいる人が少なからずいらっしゃることは十分に承知しています。興味本位は無関心に優ります。

プロローグにかえて

 

知らなければ、誤解する。誤解は誤解を生む。だからまず知ることが必要だ。だから興味本位は無関心に優る。事実の隠蔽は無関心にも劣る。

2459

 

何かを促進すれば何かが抑制される。病名のつけ方にも政治がある。良い悪いではない。現実である。

1345

 

善意は美しい。無知に基づく善意も美しい。だが美しいだけでは空虚だ。空虚であるのみならず、有害にさえなり得る。

1900

 

筆者の問題意識

世の中は精神病に関して無知すぎる。うつ病、発達障害、ADHD、統合失調症、高次脳機能障害、睡眠障害、摂食障害、アスペルガー症候群、サイコパス...etc。

専門的な精神医療の用語が一般的になる一方で、その実情、つまり精神病の実例がかえりみられることはほとんどない。むしろ勝手で不正確なイメージが先行している。なんとかしなければ。

そういう思いをひしひしと感じる本だった。

 

私の懺悔

正直、この本について書くには少し後ろめたい気持ちがあった。私も「興味本位」でこの本を読んでいる一員だったからだ。この本を読む前、私には以下のような偏見があった。

うつ病、統合失調症などは、すべて「性格」なのではないか。誰にも臆病とか、忘れっぽいとか、性格がある。そういう性格が極端な場合にのみ精神病という診断名を与えているのではないか。

でも、この本を読むことで以前のイメージは打ち砕かれた。

うつ病や統合失調症は明確な「病気」であり、心身ともに健康そうに見えても誰しも突然発症しうる。そして、他の全ての病気と同じように、早期発見と適切な治療が治癒の鍵を握る。

興味本位で精神疾患の実例を読みあさる姿勢を、私は今も全肯定できない。ただ、私が精神病に対する誤った認識を改めるきっかけを得たのが、興味本位だったことは間違いない。

 

オススメの人

精神疾患に悩んでいる人、精神疾患に悩んでいる家族・友人がいる人、精神疾患の診断に疑問がある人はもちろん、精神疾患に興味がある人にもオススメです。

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