こんばんは。
今回は藤沢数希『なぜ投資のプロはサルに負けるのか』で紹介されていた「期待リターン」と「コスト」による分析手法を使って「大学の価値」について考えてみたいと思います。
大学って行く意味あるのかな
かけたお金以上返ってくるなら、意味があると言えるんじゃない
大学に行く意味を計算してみた Part2「損益分岐点」 - 東京の井戸
準備:大学の価値をどこに見出すか
期待リターンとコストを具体的算出する前に、
本記事ではあえて、大学の価値は就職が有利になることだけである、とします。
こう言うと、「大学で出会った仲間や経験も大学の価値だ」とか、「就職のためだけに大学に行っているわけじゃない」といった反論が飛んでくるかもしれません。
また、「大学は学問をするところなのだから、学問的な成果こそ評価すべきでは?」といった反論もあり得ますね。
サークル楽しいよ
大学には投資と消費の両面の価値がある
後の議論を簡単にするために、「投資」としての大学の価値をここでしっかり定義しておきましょう。
『スーパー大辞林』によれば
投資 - 利益を得る目的で、資金を証券・事業などに投下すること。
消費 - 物・時間・エネルギーなどを、使ってなくすこと。
とされています。
つまり、 投資としての大学入学は、この後述べる「大学に入る費用」「大学に居続ける費用」を回収し、なお利益を得ようとすることです。
一方で、「仲間や経験」は基本的に一過性のものです。
もちろん一生の友達に出会うこと、かけがえのない経験をすることは後々の人生を大いに豊かにするものですが、
払った以上のお金でのリターンを得られるとは考えにくいですし、
そもそも大学に入らなくても友達を作ったり、経験を積むことはできると思われるのでここでは消費と考えます。
また、「学問的な成果」「学習そのもの」も、投資としての性質をいっさい度外視してひたすら内面の豊かさを求めるなら(それは大切なことですが)、
やはり消費といえるでしょう。
と、いうことで以下ではさしあたり就職のみを考えることにします。
わかりやすくお金だけ考えようってことだね
大学にかかるコストは?
さて、下準備が整ったところで、「大学に入るコスト」「大学に通うコスト」を計算していこうと思います。思いつく限り上げてみると、
- 塾や予備校など、大学受験勉強にかける教育費 p
- 大学の学費や入学金、設備費 t
- 大学に通う交通費や下宿代 f
- もし大学に通わず就職していた場合の所得 i
こんな感じでしょうか。それぞれ検討してみたいと思います。
教育費 p
文部科学省「平成28年度子供の学習費調査」では、全日制公立高校の「学習塾費」は平均10万7000円とされています。私立では17万円とされていますが、いずれも大学受験をしないが故に学習塾に通っていない生徒が多く含まれることに注意が必要です。
この数字を採用すれば、公立高校3年間の学習塾費は32万円、私立高校3年間の学習塾費は51万円となります。
学費や入学金、設備費 t
文部科学省「平成28年度学生納付金調査」では、私立大学の初年度学費・入学金・設備費の合計は130万円、2年度以降はおよそ100万円ですので、4年で卒業した場合、およそ430万円となります。
公立大学は初年度が76万円、2年度以降はおよそ55万円ですので、4年で卒業した場合はおよそ240万円です。
交通費や下宿代 f
日本政策金融公庫「平成28年度教育費負担の実態調査」によれば、自宅外通学者(下宿生)への仕送りは平均で年145万円です。
よって4年で卒業した場合、平均仕送り額は580万円になります。
もし高卒で就職していた場合の所得 i
厚生労働省「平成28年度賃金構造基本統計調査」によれば、高卒の平均初任給はおよそ18万円です。昇給や税金がないと単純化すれば、4年間で得られる給与はおよそ860万円です。
大学のコストの合計
さて、以上の統計から、大学のコストC(万円)は
C=教育費p+学費等t+下宿費f+就職した場合の所得i
で表され、例えば公立高校→公立大学と進み、実家から通う場合の平均コストは
C=32+240+0+860=1132万円
であり、私立高校→私立大学と進み、下宿先から通う場合の平均コストは
C=51+430+580+860=1921万円
であることがわかります。便宜的に各種統計から平均値を用いましたが、もちろん各変数に皆さんの値を代入していただくことでより実態に近いコストを算出することが可能です。
すごい額が出てしまった
あくまで平均だからね。仕送り額は実感よりずいぶん高いね
大学に通うことで得られる期待リターンは?
さて、大学に通うことで得られる就職上のメリットは、もちろん就職が有利になることです。
就職しやすくなるということ以上に、平均的な給与が上がることも考慮する必要があるでしょう。よって、設定する変数としては
- 大卒による年収の上昇幅 ai=12×(大卒の平均月収-高卒の平均月収)
- 大卒の就職率 pe
が適当だと思われます。それぞれ見ていきます。
大卒による年収の上昇幅 ai
先ほども使った「平成28年度賃金構造基本統計調査」によれば、大卒の平均月収はおよそ39万円です。一方で高卒の平均月収はおよそ29万円です。よって、1ヶ月で10万円、1年で120万円の差額が発生し、ai=120(万円)となります。
大学の就職率 pe
大卒の就職率は2018年春で98.0%でした(日経新聞)。よって、ここではpe=0.98を採用します。
期待リターンを計算してみる
さて、期待リターンPRは、定年を65歳として43年間働くと考えると以下の式で求められます
期待リターンPR=年収の上昇幅ai × 43 × 0.98
変数に値を代入すると、
PR=5057(万円)
となり、 上で計算した平均コストを大幅に上回ることがわかります。
定年までで5000万円も違うのか…
応用の可能性:様々なケースを考えてみる
ここまで非常に単純なモデルで計算を行ってきました。ここからはもう少し踏み込んでモデルを発展させてみたいと思います。すぐに思いつく発展の余地は以下の通りです。
- 平均年収が社会人1年目から貰えるはずはない。実態に則したモデルにしたい
- 奨学金を借りて大学に進学する人も多い。
特に、年収を実態に則したかたちで検討すると、「何年で大学にかけたコストを回収できるのか」がわかります。その年数は事実上、大学という金融商品の損益分岐点だと思われます。この辺は、今後の記事でまた書いていきたいと思います。
むすびに
今回の超単純なモデルは、正直なところ、どこまで使い物になるかわかりません。
しかしながら、大学を投資として捉え、冷静にそのリターンを検討する姿勢自体は、大いに有益なものなのではないかと思います。
間違っている点・良かった点など、フィードバックお待ちしてます
大学に行く意味を計算してみた Part2「損益分岐点」 - 東京の井戸
参照した媒体
私立大学等の平成28年度入学者に係る学生納付金等調査結果について:文部科学省
平成28年度教育費負担の実態調査:
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kyouikuhi_chousa_k_h28.pdf
大卒就職率98.0% 18年春、3年連続で最高 :日本経済新聞